ドライブレコーダーによって発症時間を特定でき,rtPA治療をできた脳卒中の一例
運転中に発症した脳卒中を診るとき確認すべきこと - Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文
Neuropixel,すごいがなかなか受け入れがたい技術だと思っていたが,先のNatureの2報
聴覚野のrecording - shedding light on your world
言語野のrecording - shedding light on your worldのイントロを読むと,すでに2022年に報告された技術であることがわかる.
Neuron
High-density single-unit human cortical recordings using the Neuropixels probe
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0896627322004482?via%3Dihub
Nat Neurosci
Large-scale neural recordings with single neuron resolution using Neuropixels probes in human cortex
https://www.nature.com/articles/s41593-021-00997-0
Nat NeurosciのほうはFig1に詳しいdeviceのようすが載せてある.シート状の電線の先に,非常に細い電極がついていて,それをロボットアームでゆっくりとSTGやPFCに挿入するということのようである.具体的な図をみるとだいぶイメージがつくが,それでも恐ろしい…
Neuronのほうは挿入の実際の動画があり,参考になる.めちゃくちゃゆっくり挿入しているが,脳表面が動いていたりもするので,緊張する.
Spacial and temporal nearby neuronの活動をどう評価するかが難しいらしい.
Technicalな論文で詳細はわからないが,こういう技術の芽からNature級のpaperが来るんだなというのを再確認した.
JAMA Neurologyから,Triptan製剤使用者における心筋梗塞と脳卒中のリスク上昇を見た論文.
Risk of Stroke and Myocardial Infarction Among Initiators of Triptans
429,612名の観察で,case-crossover designというのを採用した.つまり,イベント発生までの2週間のトリプタン曝露を2週間の4つの参照期間と比較してオッズ比(OR)を推定した.心筋梗塞は11件(OR 3.3),脳梗塞は18件(OR 3.2)と,トリプタン使用により心筋梗塞と脳卒中リスク上昇することがわかった.
発症者は中央値で60歳,高血圧や脳梗塞の既往がある人でリスクが高いとのこと.
感想だが,デザインが良いと思った.トリプタン処方前と後を比べればよいので,カルテ情報をしっかり書いてあれば遡れる.2週間程度というのも良い.ただ,そのかわり42万人のデータを集めるのに1995-2022年という膨大な年月がかかっている.とはいえ得るものはある論文だった.
今日はJAMA Neurologyから,抗凝固療法を行っている患者が脳出血を起こしたときに,抗凝固のreverse治療開始までの時間と転帰に関係があるか見てみた論文だ.
Time to Anticoagulation Reversal and Outcomes After Intracerebral Hemorrhage
AbstractとFig, Tableしか読んでいない.
まぁ,速いほうが生存によいという結論はそうなのだが,かなり差が微妙で,脳出血はやはり難しいようだ.Table2がメインの結果だが,DTT (Doorから治療までの時間)が60分以内と60分より後でわけていて,DTT≦60分だと院内死亡率が31.9%,DTT>60分だと28.7%とはっきりした差がないように見えてしまう.mRSで見ているfunctional outcomeも差がはっきりしない.
使っている中和剤に差があるのはひとつ問題かもしれない."type of reversal agent (vitamin K, FFP, PCC), including factor Xa inhibitor reversal (andexanet-alfa) and thrombin IIa reversal (idarucizumab)"とあって,そりゃワーファリンにvitK使うのとPCC使うのでは全然違うだろという気がするし,Xaに対してandexanet使うのも毛色がまた全然違ってくる.しかしそれを全部ひっくるめた実臨床的なデータということなのだろう.
聴覚野についても同じ技術を用いて,single cellレベルでのrecordingが行われていた.
Large-scale single-neuron speech sound encoding across the depth of human cortex
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06839-2#Sec9
Fig1がわかりやすい.上側頭回STGにNeuropixelsと呼ばれる超高密度の電極をさしてrecordingする.7,000 um (7 mm)程度のrecordingが可能である.Fig1aにあるように,めちゃくちゃ細い針なので非侵襲的ということなのだろう.しかし心理的に抵抗はある…
被験者はてんかんもしくは脳腫瘍で,片葉切除術予定の方を対象としたらしい.
門外漢なので雰囲気しかわからないが,Fig2をみると,読んだ文章に対して,反応が違うneuronがあることがわかる.
Fig4では,神経活動は反応の種類と皮質の深さによってクラスタ化されることが示されている.
こんなことができるのか,というのと,神経は個々の神経細胞に固有の機能があり,近隣の神経細胞は機能が似通っており,その総和で一次の機能が形成される,そこにネットワークが加わって高次の機能となる,という方向がさらに強まりそうだなと感じた.
Natureに出ていた,言語野のほぼsingle cell levelでの発音のrecordingの論文.
Single-neuronal elements of speech production in humans
https://www.nature.com/articles/s41586-023-06982-w
こんなことできるんか…という衝撃があった.
Awakeでヒトの頭蓋内に,だいたいanterior area 55b to 8aの部位に,超高密度の針電極を入れ,single cell levelで発音過程をrecordingしたという論文.
音素,音節,形態素に対応する細胞が分かれており,それをscRNAseqのようなt-SNEの図で示している.
倫理的な面が心配だったが,DBS目的に穿頭術をしていた人たちに同意をとってrecording電極を入れ,その後抜いて,DBSの電極をいれる手術を行った,ということらしい.それでもなかなかすごい…
どうやって論文を整理するか,悩ましく思っていた.
いっそのことoutputも含めてブログにしてしまえと思ってブログを始めることにした.
このブログが少なくとも自分の行く先を照らしてくれることを願う.他者の役に立てば望外である.
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ひとつめは,NEJMのMentorについての散文.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2313304?query=WB
散文なのでヒントにはあふれているが,答えはもちろん書いていない.
しかし示唆深い.
Neurologyに進もうとしていた筆者は,自分がやりたかったのはPrimary careのgeneralistであったことに気づき,大学時代のMentorに会う.そのときにMentorは以下のように言う.
「あなたは患者をアルコール性neuropathyと診断する.そして、主治医にアルコールの問題について相談するよう伝える.それについてどう思うか、鏡に向かって話してください」
センスの良い切り取りだ.筆者はこれでgeneralistを目指したらしいが,重要なことは,このとき筆者は可能性が拓けたように感じたということだった.MentorshipはMenteeのためにあり,Menteeのために尽くすMentorこそが良いMentorだろうというふうなことも言っている.それはそうなのだろう.周りから完璧なメンターだからと言われて会ったら,何を追うべきかよりも何を避けるべきか,何ができるかよりも何ができないかを大半の時間を割かれて言われた,ということになると,良いメンターとは言えない.
"a mentor is someone who has more imagination about you than you have about yourself"
というのも心に残った.