アルツハイマー病に先行するバイオマーカーの変化

アルツハイマー病の原因はアミロイド仮説,アミロイド蓄積→tau蓄積(神経原線維変化)→神経細胞障害→dementia発症というカスケードが一般に受け入れられている.これはBraakらの病理的な観察,ADNIというPSEN1変異の若年性アルツハイマー病の長期観察などが背景になっている.

近年では血液,脳脊髄液のバイオマーカー研究によりこの仮説がreinforceされている.血液バイオマーカーは今までは難しかったが,感度が上がってきて検査ができるようになってきたようだ.

NEJMなど有力雑誌に,健常者を長期フォローして,アルツハイマー病を発症した人に対し,アルツハイマー病のバイオマーカーがどう変化するかをみた研究が発表されているので今日はこれを紹介する.

 

Biomarker Changes during 20 Years Preceding Alzheimer’s Disease

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2310168

 

中国の研究で,20年にわたり健常者をフォローしたもの.648名のアルツハイマー病発症した人と,age-matchedなコントロール648名で比較.

45-65歳のCDR 0の人について,臨床情報,脳脊髄液採取,神経心理検査(MMSEなど),MRIを2-3年ごとにフォローし,最長20年まで見た,というもの.さすが中国,なかなか本邦ではできないだろう.フォロー中に695名がアルツハイマー病を発症し,うち648名が解析対象になっている.

脳脊髄液中Aβ42,Aβ42/40比,p-tau,t-tauNfL,海馬体積,認知機能の順に下がっていく.Aβ42は発症18年前から,Aβ42/40比は14年前,p-tauは11年前,t-tauは10年前,NfLは9年前,海馬体積は8年前,認知機能は6年前から低下しはじめる.

バイオマーカーの変化は,MMSE 25-27付近で最も速度が速かった.

今までの仮説をより高精度で眺めた結果になる.また,アミロイド除去治療をいつからやるべきかの基礎的なデータにもなるだろう.

 

同じような研究がAnnals of Neurologyにも報告されている.

Timing of Biomarker Changes in Sporadic Alzheimer's Disease in Estimated Years from Symptom Onset

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ana.26891

 

Amyloid PETをとってから前後2年以内に脳脊髄液をとった人を対象にして,そこから2-3年ごとに脳脊髄液をフォローする研究.118名がアミロイドPET陽性,277名が陰性.

結果はNEJMと似たようなもので,

発症15-19年前から変化:脳脊髄液Aβ42/Aβ40, 血漿Aβ42/Aβ40, 脳脊髄液pT217/T217, amyloid PET

発症12–14年前から変化:血漿pT217/T217, 脳脊髄液neurogranin, 脳脊髄液SNAP-25, 脳脊髄液sTREM2, 血漿GFAP, 血漿NfL

7–9年前から変化:脳脊髄液pT205/T205, 脳脊髄液YKL-40, 海馬体積,認知機能

というものだった.

臨床症状に加え,血液,脳脊髄液バイオマーカーでアルツハイマー病が診断されるようになる時代がくるのだろう.