p53の歴史

Cellから.p53自体には興味はそこまでないが,何かの研究のアイデアになるかもしれないと思って読んだ.

p53: A tale of complexity and context

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00246-0

 

p53の歴史が載っていた.

最初はoncogeneと思っていたが,RB1の発見からtumor suppressor geneではないかとなった.ノックアウトマウスはlymphomaが多発した.

p53はsequence dependent transcription factorであり,DNA binding domainを有する.p53はMDM2/MDM4により活性を抑制されている.

2000年代に入り,p53の機能は多様であることが明らかにされる.apoptosis, ferroptosis, cell cycle arrest, 老化など.興味深いp53のgain of functionが再度考慮されるようになったこと.これは,p53 KOマウスよりも,mut-p53をノックインしたほうがより転移する腫瘍や,多様な腫瘍が出てくることによる.

治療についてもいくつか.p53-basedの遺伝子治療はlethalな副作用が出てダメだった.MDM2/4をターゲットにしたinhibitorなどはよいかも.

p53の研究の紆余曲折,多彩でひとつに決まらない機能などはTDP-43を彷彿とさせる.封入体を形成するかどうか,ちょっと興味がある.

問題の選択とdecision tree

Cellのcommentaryから.

Problem choice and decision trees in science and engineering

https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(24)00304-0

 

自分の研究の行き詰まりを解決してくれるかもしれない,と思って読んでみた.この手のだとシステム生物学のUri AlonがMolecular Cellに書いた

How to choose a good scientific problem

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1097276509006418?via%3Dihub

は大学院生の頃からずっと読んでいるが,この論文も引用されている.

 

問題の選択に時間をかけること

これはしばしば言われることだ.柳沢正史先生も良い問いを見出すことの重要性を述べている.

柳沢正史教授が2017年度朝日賞を受賞 | NEWS - 筑波大学

科学の仮説とは,しょせん人間が小さな頭脳で考えたストーリーにすぎません。目の前のデータがすべてで,自分の仮説をその上に置くことは許されないことなのです。さらに,「良い問いを見出すことは,問いを解くことより難しい」ということも肝に銘じています。科学の価値は,「新しいことを知ることそのもの」にあります。科学とは,「役に立ってなんぼ」のものではありません。

 

Intuition pumpsを練習し,commom trapsを避ける

生物学はシステムをperturbし,計測し,データを解析する.

新しいアイデアは,technologyかlogicのどちらかに分類される.

そのときに,intuition pumpsは役に立つ.Table1にそれらの例が載っている.Brain stormingによさそうである.

避けるべきtrapとして,familiality, 狭い目的にみんなで集中する,分野に遅れて入る,自分の努力などによるbias,尊敬する人を表面だけなぞっておなじ問題に取り組んでしまう(それらの人はbrand-newなproblemを扱って尊敬する人物になっている)など.

Riskと仲良くする

名前をつけ,定量化し,着実に進める.そのための方策をBox1においてくれている.

riskを正確に見積もると,逆に信頼性が増すらしい.たしかにそうだろう.

早めにgo/no-goを決める実験をやっといたほうがよい,というのも書いてあった.

しかし,以下の文章は衝撃的…scRNAseqはもう古いのか…

The example we use in class (Box 1) outlines an effort to use single-cell RNA sequencing to identify new enteroendocrine cell types in the intestinal epithelium, an idea that is outdated but still illustrative.

最適化

どうも,プロジェクトを選んでから,成功確率とインパクトを高めるようにしていくことを勧めているようだ.よくわからないところもあった.

生物学だと,どれくらい調べた/知ったか,と,どれくらい一般化できるのか,が評価軸としてある.テクノロジーだと,どれくらい広く使われるか,応用にとってどれくらい重要なのか,という軸がある.

Fix one parameter, let the others float

この章は示唆が多かった.パラメータをガチガチにしすぎると広がりがない.一方でパラメータを決めなさすぎると(漠然と,自分は細胞工学においてすぐれた研究がしたい!みたいな)stuckしてしまって進まない.

どのパラメータを固定すべきかは,自身の興味と,ラボの専門性による.

プロジェクトがうまくいかないとき

プロジェクトは一直線には進まない.2年くらいしたら別の解決策があったりする.In silico (AlphaFoold)やDNA全合成などあらたなテクノロジーを試してみては?

実験をやって,それを批判的に吟味するというback and forthが重要である.

プロジェクトの危機のときは,プロジェクトの問題を修正しアップグレードするよい機会だし,追い込まれていることを自覚し理性的に解決する良い成長の機会である.

プロジェクトがうまくいかないとき,fixしたパラメータを振り返ってみて固定を解除してみるのは重要.別のやり方としては,得た結果から別の質問をつくってしまい,プロジェクトを別の形で再定義するやり方だ.

 

多くのヒントがあった.また読み返すことになるだろう.

 

血漿中のプロテオミクス解析で将来の認知症発症リスクがわかる

3/11に続き,認知症のマーカーについて.

健常者を14年くらい追いかけていくUK biobankのデータを用いた研究.

 

Plasma proteomic profiles predict future dementia in healthy adults

Plasma proteomic profiles predict future dementia in healthy adults | Nature Aging

 

52645名の健常者を対象にし,平均14年くらいフォローしていくと,1417名がdementiaを発症した.

血漿を,スウェーデンにあるOlink Analysis Serviceに送り,antibody-based Olink Explore Proximity Extension Assayという方法で1463個のタンパク質を網羅的に解析.

GFAP, NEFL, GDF15, LTBP2は,あらゆる原因からおこる認知症アルツハイマー病・血管性認知症発症のすべてと関連していた.GFAPとLTBP2は認知症への進行に特に特異度が高かった.

また,GFAPとNEFLは認知症発症の10年以上前から上昇していた.

 

方法的にアミロイドが出てこなかったのかもしれないし,タウがいないのも気になったが,これも手法の問題だろうか.

中国からの報告だが,UK biobankのデータを用いているようだ.どうやっているのだろう.

アルツハイマー病に先行するバイオマーカーの変化

アルツハイマー病の原因はアミロイド仮説,アミロイド蓄積→tau蓄積(神経原線維変化)→神経細胞障害→dementia発症というカスケードが一般に受け入れられている.これはBraakらの病理的な観察,ADNIというPSEN1変異の若年性アルツハイマー病の長期観察などが背景になっている.

近年では血液,脳脊髄液のバイオマーカー研究によりこの仮説がreinforceされている.血液バイオマーカーは今までは難しかったが,感度が上がってきて検査ができるようになってきたようだ.

NEJMなど有力雑誌に,健常者を長期フォローして,アルツハイマー病を発症した人に対し,アルツハイマー病のバイオマーカーがどう変化するかをみた研究が発表されているので今日はこれを紹介する.

 

Biomarker Changes during 20 Years Preceding Alzheimer’s Disease

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2310168

 

中国の研究で,20年にわたり健常者をフォローしたもの.648名のアルツハイマー病発症した人と,age-matchedなコントロール648名で比較.

45-65歳のCDR 0の人について,臨床情報,脳脊髄液採取,神経心理検査(MMSEなど),MRIを2-3年ごとにフォローし,最長20年まで見た,というもの.さすが中国,なかなか本邦ではできないだろう.フォロー中に695名がアルツハイマー病を発症し,うち648名が解析対象になっている.

脳脊髄液中Aβ42,Aβ42/40比,p-tau,t-tauNfL,海馬体積,認知機能の順に下がっていく.Aβ42は発症18年前から,Aβ42/40比は14年前,p-tauは11年前,t-tauは10年前,NfLは9年前,海馬体積は8年前,認知機能は6年前から低下しはじめる.

バイオマーカーの変化は,MMSE 25-27付近で最も速度が速かった.

今までの仮説をより高精度で眺めた結果になる.また,アミロイド除去治療をいつからやるべきかの基礎的なデータにもなるだろう.

 

同じような研究がAnnals of Neurologyにも報告されている.

Timing of Biomarker Changes in Sporadic Alzheimer's Disease in Estimated Years from Symptom Onset

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ana.26891

 

Amyloid PETをとってから前後2年以内に脳脊髄液をとった人を対象にして,そこから2-3年ごとに脳脊髄液をフォローする研究.118名がアミロイドPET陽性,277名が陰性.

結果はNEJMと似たようなもので,

発症15-19年前から変化:脳脊髄液Aβ42/Aβ40, 血漿Aβ42/Aβ40, 脳脊髄液pT217/T217, amyloid PET

発症12–14年前から変化:血漿pT217/T217, 脳脊髄液neurogranin, 脳脊髄液SNAP-25, 脳脊髄液sTREM2, 血漿GFAP, 血漿NfL

7–9年前から変化:脳脊髄液pT205/T205, 脳脊髄液YKL-40, 海馬体積,認知機能

というものだった.

臨床症状に加え,血液,脳脊髄液バイオマーカーでアルツハイマー病が診断されるようになる時代がくるのだろう.

AQP4を発現する胸腺B細胞はAQP4に対する免疫寛容を誘導する

抗AQP4抗体はNMOSDを引き起こす.抗体病なのでB細胞は重要だが,T細胞の反応についてはよくわかっていなかった.

 

B cells orchestrate tolerance to the neuromyelitis optica autoantigen AQP4

B cells orchestrate tolerance to the neuromyelitis optica autoantigen AQP4 | Nature

 

手法としては,おもにKOマウスを使っていて,胸腺上皮細胞(mTEC)特異的(AQP4-ΔTEC),あるいはB細胞特異的にAQP4を欠損(AQP4-ΔB)させている.AQP4-ΔBのみAQP4特異的な胸腺細胞が残る.つまり,AQP4発現したB細胞はAQP4特異的な胸腺細胞の除去に関わっている.(Fig2)

AQP4特異的なT-precursor cellが残るとNMOSDを起こしやすいかどうかを,P41を用いたEAEとMOG35-55抗原を用いた実験的自己免疫性脳炎EAEモデルで比較している.(Fig5)AQP4-ΔBだと,つまりAQP4特異的なT-precursor cellが残ると,P41-EAE(NMOSD)を起こしやすく,MOG-EAEは差がない.AQP4-ΔTECでは脳炎を起こしやすいわけではない.

これらから,胸腺細胞の負の選択は、胸腺B細胞によるAQP4の発現と提示に依存している.AQP4はCD40依存的(AIRE依存的ではない)にB細胞に発現することから、胸腺B細胞はAQP4のような疾患関連自己抗原を含む生殖中枢関連抗原群に対して寛容化する可能性がある.と結論している.

 

細部は理解できていないが,NMOSDや,そもそも抗体病に胸腺B細胞が大きく関わっていることを示唆する興味深い論文だった.

医原性アルツハイマー病

アルツハイマー病のアミロイドβは,prion-likeな性質を有する,つまり,異常アミロイドは正常アミロイドに作用しアミロイド沈着を加速させていくことが様々な実験で示されている.また,Braakらの仕事に代表されるように,アミロイドプラークアルツハイマー病の進行とともに広がることも示されている.

さらに,近年では,幼少期に硬膜移植を行った人は30-40歳で若年性のcerebral amyloid angiopathy (CAA)を発症することが報告されている.

Early onset cerebral amyloid angiopathy following childhood exposure to cadaveric dura

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.25407

屍体硬膜を用いた幼少期の頭部外傷術後に 若年性脳 ...

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke/advpub/0/advpub_11093/_pdf/-char/ja

 

今回の報告は,脳下垂体由来の成長ホルモンを注射していた人で,プリオン病も起こり得るのだが,今回はアルツハイマー病についてn=8で調べた報告で,Nature Medicineに報告されている.

Iatrogenic Alzheimer’s disease in recipients of cadaveric pituitary-derived growth hormone

https://www.nature.com/articles/s41591-023-02729-2?utm_source=nm_etoc&utm_medium=email&utm_campaign=toc_41591_30_2&utm_content=20240221

 

脳下垂体由来の成長ホルモンに異常アミロイドβが含まれていることを確認し,アミロイドPETや剖検脳のアミロイド染色から存在を示している.

アミロイドは恐ろしい.また,高齢になるとアミロイドを持っている人も多くなるが,それらの人のアミロイドはいったいどこからくるのだろうかという疑問も出てくる.ApoEやTREM2などの疾患感受性遺伝子は関与するのだろうが,criticalなpointは見えてこない.

英語論文執筆の際にAIをどのように援用すべきか

英語論文を,DeepLやChatGPTを援用して書くことが増えてきている.これらのAIツールをどのように使うべきか,うっすら考えていたことが明瞭に言語化されていたのがこちら.

AIを活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策

AIを活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策

 

・まず日本語で論理的な文章を構築し,その後英訳する.

・執筆者には,英訳した後に,主張に合致している文章になっているか校正する能力が求められる

・執筆者は,英訳しやすい明瞭な日本語を書くよう普段から努力するのが望ましい

と,得られるものが多い読書だった.