ミトコンドリアのheteroplasmyの単一細胞レベルでの解析

Natureから.

ミトコンドリアのheteroplasmyについて,single cell RNA seqで調べた論文.

Single-cell analysis reveals context-dependent, cell-level selection of mtDNA | Nature

 

Single cell RNA seqの研究もたくさん出てきて,着眼点,つまりはどのような生物学的な問を解くかが注目されるようになってきた.

この論文では,

・培養細胞で変異ミトコンドリアDNAが減っていくheteroplasmic shiftは遺伝子浮動と選択のどちらで生じるのか

・heteroplasmic shiftは細胞ごとの選択で生じるのか,細胞内のミトコンドリアの選別で生じるのか

という2つのミトコンドリアヘテロプラスミーについて解かれていない問題にscRNAseqの技術でアプローチする.

まず著者らは,SCI-LITEという,新しいsingle cell RNA seqの技術をFig1で述べる.3回回収と分注を繰り返して,バーコードをその都度つけて,単細胞レベルを確保する技術のようである.Illuminaで解析をしている.どうやって細胞を分注するのか,wellはいくつのプレートを使うのか,など細かいところがmethodを読んでもわからずやや消化不良である.

メインはFig3,4,5である.

Fig3では遺伝子浮動ではなく,高いheteroplasmy率の細胞が死んでいく選択が生じるでheteroplasmic shiftが生じることを示している.Glucose培地よりもgalactose培地でそれは生じやすくなる.ちなみにheteroplasmyは,DdCBEという彼らが2020年に開発しNatureに報告した塩基editor(C→Uの変異を導入する)によって導入している.

A bacterial cytidine deaminase toxin enables CRISPR-free mitochondrial base editing | Nature

Fig4では,細胞系譜ごとのheteroplasmyの割合は変化しないことが示される.つまり,細胞内で変異ミトコンドリアが減っていくわけではなく,それは保たれたまま,変異ミトコンドリアをもつ細胞が選択で排除されていくということになる.

Fig5では,変異ミトコンドリアをもつ細胞が不利になる環境が多いが,場合によっては中立,あるいは有利になることがあるのを示している.低酸素にすると変異ミトコンドリアをもっていてもあまり不利にならない.また,galactose培地におくと変異ミトコンドリアを持っている細胞は死んでいくが,oligomycin (complex V inhibitor)をいれると,complex Iの変異をもつミトコンドリアを有する細胞が逆に有利に働く.このことから,環境によっては,変異ミトコンドリアをもつ細胞が有利になるため,agingなどにおいて変異ミトコンドリアが蓄積する背景になるだろう,と彼らは主張する.

SCI-LITEという手法が安くscRNAseqができそうでよかったが細かいところがわからず残念.また,基本的に分裂細胞で観察しているため(HEK293とHeLa cell),神経細胞や筋など長期生存する細胞においてどうなるかは気になるところである.本当に細胞内でミトコンドリアDNAがpurgeされないのだろうか.調べるのもなかなかむずかしそうな気はするが.